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2025年日本サウナ学会研究奨励賞の結果発表

結果発表
学術大賞
研究課題名
『サウナにおける「ととのう」体験の言語的表現に関する心理学的探究』
藤田 勉・蛯原 正貴
文化大賞
研究課題名
『「ととのう」身体/統治される身体──日本におけるサウナ文化の編成と身体統治に関するポスト構造主義的考察』
古谷 淳
奨励賞
研究課題名
『ウィスキング体験がもたらす心理的変化』
生野 賢司・竹内 康二
研究課題名
『サウナ温冷交替入浴による「ととのう」状態の心拍と血糖変動に関する研究』
兼田 悠・蔭山 逸行・加藤 大雅・妙本 陽・湧井 宣行・古川 琢磨・小林 由幸・児玉 耕太
研究課題名
『サウナ入浴後の音響ヒーリングがもたらす統合的効果 ― 自律神経調整と意識変容の可能性 ―』
篠田 尚弥
*略敬称
審査にあたってのコメント
学術大賞
本研究は、「ととのう」という体験を心理学の方法で定量的に捉え、言語のかたちで可視化した画期的な研究です。
日本語のオノマトペ(ぐわんぐわん・とろーん・ポカポカなど)を分析し、サウナ体験を「刺激的覚醒感」「弛緩的浮遊感」「包容的温和感」という三因子で構成する新しいモデルを提示しました。
これにより、「ととのう」という曖昧な感覚を科学の言葉で説明する道を切り開き、サウナ文化を心理学・言語学・文化人類学の交差点で捉え直した意義は大きいです。
感覚を“測る”という挑戦を成功させたこの研究は、学術的にも文化的にもサウナ研究の新たなマイルストーンとして高く評価されました。
文化大賞
本研究は、サウナを「健康の場」ではなく「社会と身体をめぐる統治装置」として読み解いた、極めて先鋭的な思想研究です。
フーコー、バトラー、ローズといった現代思想を基盤に、「ととのう」という快楽がいかに制度化され、個人の自由や幸福が社会構造の中で形成されているかを問い直しました。
サウナを哲学・社会学の文脈に置き直したこの論考は、国内外の学術水準を凌駕する完成度を誇り、「ととのう」の裏側にある現代社会の構造を見事に浮かび上がらせています。
サウナを愛しながらも批判的に見つめ直す姿勢は、まさに“文化研究”の真髄であり、文化大賞にふさわしい深遠な一作です。
奨励賞
『ウィスキング体験がもたらす心理的変化』
白樺の香りとリズムが生み出す五感刺激の効果を心理学的に検証し、緊張や抑うつの軽減、活気の上昇を実証。
87%の参加者が「生まれ変わったような感覚」を報告するなど、感覚の再生を科学的に裏づけました。
伝統的入浴法を現代のウェルネス科学に接続した意義深い研究です。
『サウナ温冷交替入浴による「ととのう」状態の心拍と血糖変動に関する研究』
連続血糖モニタリングを用い、サウナ中の血糖変動を可視化した世界的にも希少な研究です。
サウナによる一過性の血糖上昇と、その後の副交感神経優位化を実測し、「ととのう」の生理的実体を明らかにしました。
今後の心拍変動・自律神経解析との連携により、サウナ生理学の確立が期待されます。
『サウナ入浴後の音響ヒーリングがもたらす統合的効果 ― 自律神経調整と意識変容の可能性 ―』
サウナ後にゴングやシンギングボウルを組み合わせるという独自の試みで、身体と意識の統合的変化を提示しました。
参加者の自由記述から「宇宙との一体感」「心の静まり」といった体験を抽出し、
サウナを単なる生理的リラクゼーションの域を超えた“意識文化”へと拡張した点が高く評価されました。
論文内容について
学術大賞および文化大賞受賞者による講演は、2025年11月22日開催 日本サウナ学会学術総会(於:北海道札幌市)にて行われます。
また、受賞対象論文は「The Japanese Journal of Sauna 2025」として日本サウナ学会公式サイトに全文掲載予定です。
最後に
本年度も、サウナの科学・心理・文化を多角的に探求する研究が数多く寄せられました。
サウナを通して身体を知り、社会を知り、そして人間を知る。
「ととのう」という言葉の奥に潜む多層な意味を、研究者一人ひとりが掘り下げてくださったことに、心より敬意を表します。
サウナが持つ可能性は、もはや健康の枠を越え、芸術・思想・科学をつなぐ新しい知の地平にあります。
来年も、この熱をさらに広げていきましょう。
日本サウナ学会 代表理事
加藤 容崇